遠来のお客様?
         〜789女子高生シリーズ 枝番?

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


       




始めはネ、
初対面同士だっていうのに、
あんた誰だと驚かないし慌てないお嬢さんたちなんで、
平静な振りして警戒しておりましたよ。
だって、あの村へ侍が駆けつけてること、
アタシらの腕っ節も含めて、
多少は野伏せりの陣営へ伝わってもいたはずですからね。
勿論のこと、
恐れるに足らずと油断してくれた方がいいのではありますが、
それこそ慎重で周到な参謀さんがいたならば、
間諜を忍ばせて、我らの結束を内部から揺らがすというのも手じゃあある。
それを警戒していたんですけれどもね…。

  “ヘイさんにキュウゾウ殿の、転生人、ですか。”

いつも笑顔を見せての
朗らかに振る舞いながらも、実のところはどこか頑なで。
人にはそれぞれ、身のうち胸のうちに隠し持つものがあって当然。
ましてやあの大戦を通過した身の上ともなりゃ、
地獄の一つや二つ、
見聞きしたどころじゃあない、
死にゆく者らの吐いた怨嗟や血しぶきを、
その身へ浴びもしただろし。
わざわざ聞きほじることもあるまいと構えてた。
機会があれば、自分から語ってくれるやも知れぬ。
そうでなくとも、信頼の置ける人柄なのは肌身で知れたから。
深くは聞くまいとしていたし、
向こうでもそういう気構えへ気づいていたか、
冗談口を気安く利きつつ、でもどこか寂しげな顔になることもありはして。

片や、

サムライとは人斬りだと、
それをようよう把握し切ってた存在だったと思う。
人とのよすがなぞ要らぬと前しか見ない。
そういうところは、勘兵衛様にどこか似ていて、
だが、彼の場合は、
何かが大きく欠落しているような、
いやさ、羽ばたく身に余計なものなぞ要らぬと
片っ端から切り捨てて来たような、そんなお人で。
戦さが遠くなった今となっては、
遠くなった穹をばかり思い、心をそこへ置いて来たがため、
尚のこと、刀とその使い手にしか関心はなく。
人になる前に侍になってしまったようなと、
勘兵衛様が口になさっていたのが、
正しく言い当てていたようなお人だったものも、
根気よく頬笑んでおれば、少しずつ馴染んで下さったのが、
何ともかあいらしいと、愛おしくさえ思えたものだったけれど。

 『いや、そのように思えるのはシチさんだけでは。』
 『まだまだ十分に威容を保っておいでだぞ。』

 『あれれ? そうでしょか?』

そんな二人と、幾星層もの時代や世界を越えてまた出会えるらしい。
それも、こうまで愛らしい彼らにだ。

 “…あ、いやいや“彼女ら”か。”





    ◇◇◇



 呑気に昔話(?)に沸いている場合じゃあないし、こちらの先進の機器に収められた、そっくりさんの写真を公開している場合でもない。

 「シチさんまで居なくなってしまうなんて。」
 「〜〜〜〜っ。」

 さっきまで確かに此処に居た、彼女らの親友、女子高生の七郎次は、一体どこへ行ったのか。広々とした室内だけに、隠れようと思や…ピアノの陰だのクロゼットの中だのと、場所には困らぬリビングだったが、その何処にも姿はなく。見回すだけじゃあ飽き足らず、天井の高い部屋に合わせてそりゃあ大きな戸口に嵌まった、両開きの大きくて立派な扉を開け放ち。サンルームの外へまでたったか駈け出してった久蔵が。ややあって肩で息をしつつ戻って来て言うには、1階の何処にも姿はなかったし、家人らも見かけてはいないとのこと。あの一瞬でそれ以上の遠くまで伸しては行けぬだろうとから、これはやはり…。

 「ですよね。」

 自分の意志で出てったなら尚更、それ以上の遠くへ突然出て行った事情
(ワケ)を、メールや何やで知らせて来てもいいはずだが、先程から打っているメールにも“つぶやき”にも応答はないと来て。こうなると自分の意志から姿を消した彼女だとは思えない。だとしたら、こんな一大事はないぞと浮足立ちのそわそわ落ち着けない彼女らへ、

 「それって、ここに写ってるお嬢さんですか?」
 「ええ、そうなんです。」

 シチロージが問いかけてくる。彼が指しているのは、さっき見せてもらった久蔵のスマートフォンで。液晶画面の中には、こちらの世界の島田勘兵衛の腕を取り、にこやかに微笑む、可憐な十代の少女がおいで。そのお顔をもう一度眺めて確かめてから、

 「アタシが見回したおりにはもう居ませんでしたがねぇ。」

 さすがはもののふ、しかも警戒態勢中だっただけのことはあり。呑気に“痛てて…”と口走りつつも、一応の基本として、周辺への警戒は働かせていたらしく。そんな彼なればこそ、室内にはこちらの少女二人のほかには気配がなかったと断言出来もするのだろう。不味いぞ不味いと、思考が悪いほうへと向かうのを懸念しつつも、

 「……あのあの、カンナ村では今何をしているところでしたか?」

 あんまりいい訊きようではなかったのは百も承知、訊いてから、あ、いやいや、機密でしょうから言えませんかしら?と。付け足しかけたが時すでに遅かったらしく、

 「何でそんなことをお聞きになるんで?」

 それまでは穏健だった槍使いさんの表情が一気に冴え、目付きがやや剣呑な鋭さを帯びたので。

 ああやはり、
 さすがに頭から信用し切ってたわけじゃなかったかと。

 女子供が相手だからと流されないところ、頼もしいなという感覚と、寂しいなという感傷とが綯い交ぜになりつつ、

 「今になって訊いては、怪しまれてもしょうがないですね。」

 まだ飲み込めてらっしゃらないようですが、突然、道の端っこに このような部屋や屋敷が設けてあった訳じゃなし。窓からの景色や、何だったらこのご近所まで出掛けて確かめられてもいい。此処はカンナ村でもなけりゃあ、元和13年のあの大陸でもありません。

 「………。」

 そんなまくし立てへも、彼の態度へ不意に立ち上がった“油断がならぬ”というこちらへの警戒の気配はあんまり薄まりはしなかったが。ただ…それとは別の感情か、

 「…。」

 口許が僅かほど動いたのは、何か言いたい彼なようで。こちらも言葉を切ると、しばし頭の中を引っ掻き回しかかった平八だったが。そんな彼らの沈黙を見守っていたもう一人が、紅色の双眸を瞬かせると、

 「空艇喰いの…。」

 もしょもしょっと小声で呟いたものだから。それをヒントに あっと何かが閃いたひなげしさん。そうだ、そうだった。そんな話を私も聞いたことがあった。ということは、もしかして…

 「さっきまでの私の説明を鼻で笑わなかったあなたです。
  もしかして“神隠し”を信じてくださっているのでは?」

 すがるように訊くと、視線の勢いはそのまま、だが目線の向きはやや下げてくれつつ、

 「…そんな夢のある話じゃないんですがね。」

 シチロージが低めたお声でぽつりと呟く。

 「大戦中、それも会戦のさなかに、
  斬艦刀ごと行方が判らなくなる同胞が結構いたんですよね。」

 撃沈されれば、それなりの報告の声…悲痛な響きのする混乱の文言とともに、識別信号が破損消失という形で本部や司令部へ伝わる。捕虜になってもそこは同様。何とか戦域全体という空域だけは網羅していた司令部の管制盤で、どれほど遠く離れたか、その距離から事態は把握されるから。ところが、さほど遠くない辺りで、異状を知らせるやり取りもないまま、ふっと信号が掻き消えるケースがたまにあって。臆病な奴らめ、混乱に乗じて逃げたんだろなんて悪態をつかれることもあるが、それなら遠ざかってく経緯が記録されるはず。通信を切れば切っているという表示が出るシステムだけに、たまたま、そこが故障していた機ばかりが整備不良の罰が当たって消息を絶つということだろか?

 「斬艦刀ごと、何かに飲み込まれたかのように
  不意に消息を絶ってしまうケースがたまにあるのを、
  誰が言うともなく“魔界に飲まれた”と、
  空艇部隊の搭乗者の側の間でこそりと言い伝えておりましてね。」

 新兵を怖がらせようとする作り話だと取り合わぬ者もいましたが、ゴロさんが、南にもそういう話はあるぞと仰せだったので…。

 「ええ。空艇喰いの淵の話でしょう?」

 久蔵もいた“南”では、そんな呼び方をしていたそうでと。ほのかに眉を下げる平八へ、

 「この話は、大戦のしかも最前線経験者でないと知らないはずですが。」
 「そうみたいですね。」

 当時の話を怪談という伝説にするにはまだ早すぎる。あんまり名誉な話じゃないし、撃墜された者と同じように“戦死”扱いされた人への冒涜にも成りかねぬからで。最前線にいないと知り得ないことのようにお思いかもですが、後方支援とはいえ こちらは整備部の工兵だったのだもの、戻って来ない空艇の話はやはり取り沙汰してました……

 「……って。
  久蔵、肘を張ってまでして耳を塞がない。」

 先に思い出しといて、何ですか今更と、怖い話はごめんだと言わんばかりの紅ばらさんへ呆れた平八。細い二の腕を引っ張る少女と、それをさせまいと頑張るお嬢さんとなのへ、あらまあと、今度は完全に毒気を抜かれたか。唖然としてから、クッと短く吹き出した美丈夫さん。

 「怪談を信じる性分じゃないんですが、
  この話だけは何だか疑い切れないので妙に覚えていましてね。」

 ひとり5年も寝ていた身だったからってのもあったし、目覚めてから身をおいてたのがアキンド相手のお座敷料亭。戦中の話ってのは持ち出しもしなけりゃ訊いた覚えも少なくて。

 「せいぜいカンナ村で
  ゴロさんやヘイさんとしか話した覚えはない話。
  でも、北でも南でも同じ不思議が起きていたってところから、
  単なる怪談じゃあないぞ、信憑性は高い現象だぞと
  意見も一致してたんですが。」

 そんな深いところまで備わった説まで心得ているからにはと、今度こそ本心からのそれなのだろう、目許もしっかと不敵に座った、それは強かそうな笑みを口許へと浮かべた槍使いの君。

 「なるほど、それに巻き込まれたという話は、
  実体験は限られているアキンドには出せぬ知恵だ。」

 さすがにもう床からは腰を上げていての、勧められた椅子に腰掛けておいでの七郎次。ここまでは情報収集してでもいたものか、彼女らの話をただ聞いていただけという感があったものが、

 「それで?
  こっちの世界のアタシがいなくなったことへ
  神隠しの話まで持って来たってことは。
  単なる行方不明では無さそうだという何かへ、
  目串が刺せたってことかな?」

 当事者であるにも関わらず、単なる傍観者ぽく構えていた今までとは異なってのこと、そんな風に話を振って下さったので。


 「ウチのシチさんとあなたは
  まんま入れ替わったものと思われるんです。」


 こういうものの考え方がそちらの世界の哲学なり幻想なり、民間信仰なりにあったかどうかまでは明るくないのですが、

 「世界を構成している部品として、
  あなたとシチさんは互いに素養が似通っていたがため、
  何かの弾みで同時に弾け飛んだそのまま、
  本来の居場所じゃない側へ間違えて戻ってしまった。」

 とはいえ、あなたとシチさんは、例えば性別や年齢という判りやすいところはもとより、個としても全く別な存在同士ですから。ホメオスタシス、恒常性という機能が働くか、若しくはそのままだと生じる歪みが働いて、思わぬ間合いで元通りとなる可能性がある。というか、それへ懸けるしかないようです。

 「くどいようですが、私たちにも何が何やらな出来事。
  あなたをまじないでお呼びしたわけじゃあないので、
  戻す方法は判りません。」

 つか、何か覚えていませんか? さっきもこれを訊きたかったんですが、こっちへ飛ばされる直前に何か見たとか、得体の知れない感触を踏んだとか。

 「“神隠し”という現象や謂れは昔からどこにでもありました。
  西欧では“妖精の夏至のダンスの輪”というのがあったといいますし。」

 神隠しは、倒れているとか遺体が見つかることもないまま、音沙汰がすっとなくなる、帰って来なくなることを指していて。今で言う…子供なら誘拐、大人なら事故に遭っての記憶喪失じゃないかと言われています。夏至のダンスの輪の方は、夏の初めの薄暮に浮かれて帰りが遅くなっちゃあいけないという窘めか、若しくはそんな時間帯に行方が判らなくなる人が多かったのか。草むらの中に妖精たちが踊る輪があるのへ巻き込まれると、一晩のつもりが何十年も過ごしてしまい、家へ帰っても誰も知ってる人がいないなんてことになるという、浦島太郎みたいなお話なんですが。

 「そこまでメルヘンなものじゃなく、次界の歪みやほころび、
  そこへ巻き込まれたのかもしれない。」

 メルヘンなという言い回しに、七郎次が小首を傾げ。ああ、えっとと、無難な言い回しに代替しなくちゃと思ったついでに、ふっと、我に返ったような格好になったのか。

 「現実的じゃあない話をしているには違いないですよね。」

 自分でも、何を真剣に語っているのかって思わなくもないですがと、複雑な心情を滲ませて、泣き笑いに近いお顔をする平八であり。機械いじりやPCソフトの解析など、超リアルなことにこそ関心のある自分がと思えば尚更に、それらと真逆なものへの実在を主張してんだなと、大いなる矛盾を思わなくもないけれど。

 「ですが、シチさんが帰って来ないのは絶対にイヤなんです。」

 そう、現にあり得ない格好で七郎次がいなくなっている以上、そういう可能性にもすがるというもので。そのヒントが何かないかと思ってのこと、さっきの問いかけをしたひなげしさんだったのであるらしく。

 「得体の知れないもの、ですか?」

 そう言われてもと、やや小首を傾げた金髪白皙の美丈夫は、だが、

 「…そういえば。
  暦とは違って明るいうちから月が出てたんで、
  おや?と思ったんですよね。」

 夜中の哨戒もやってますからね。確か前の晩も夜更に見上げたはずなのに何でだろって。齟齬を感じたそこへ、遠くからの風が渡って来ましてねと。自分が此処へ来る直前の情景を何とか思い出してみてくださったのでありました。







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 *タイムスリップにしても人格入れ替えにしても(こら)
  同人世界にはよくあるネタで。
  そういう下敷きというか、
  もう浸透しているネタだからというのへ乗っかって、
  起きたときと同様、
  またまた思いがけない弾みで
  元通りになりました…で片付けてもよかったのですが。

  ……つか、ヘイさんにも言わせましたが、
  誰かがまじないでも掛けてのこと、作為的にやらかしてない以上、
  それを待つしか手の打ちようはないのですが。

  シチさんを頑張って説得しているヘイさんだという
  描写もかねてのこと、
  やたらと理屈を並べた章になってしまっててごめんなさい。
  勘兵衛様は自分の勘で
  白百合さんからシチさんと同じ何かを感じ取ったようですが、
  シチさんはそこまでアナログじゃあないというか、
  それが“理屈上の証明”という形でもいいとしつつも、
  きっちりとした“手証”がないことには
  やすやすと丸め込まれないんじゃあ…と思ったもので。


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